| 前のページに戻る | 次のページを見る | 目次に戻る | 表紙に戻る |
そこで,より詳しく説明するものとしては,まず,多くの民衆生活の表現の基底に横たわっている精神生活をうかがうものとして,社寺その他の路傍の神仏に至る民間信仰の諸相を解説した.もちろん,ここでは多摩川そのものについての信仰ではなく,流域の山,川,樹木などに対する民衆の意識を示す信仰現象に触れたい.また,住民の間に不文の伝承として形成された昔話,伝説,世間話など,口伝えの文化の内容と伝播関係を示して,そのイメージの型,つまり何を望ましい価値とみて,何は好ましくない状態と考えてきたのかをうかがってみる.これがいわゆる口承文芸と呼ばれる部門である.さらに土地に根拠をおいて生活する人々が,その土地のどのような性質に注目し,それを利用してきたかを示す小地域,大地域の名称を考察することとした.地名についての論考がそれである.さらに,それら名もない庶民たちの生活の中から生まれた文化の表現である各種の文化財,遺跡,建築物,美術品,芸能,記録などの主要文化財について説明を試みた.最後に古来の住民が主として多摩川について感慨を述べ情感を慰めた文学作品や行楽行事の主要なものについて,その場所や内容の解説を行って参考とすることとした.いわゆる名所旧跡の代表的なものが,時代とともにどのように移り変わったかが,そこに現れてくるであろう.
庶民の生活文化の現れは決して以上に止まるものではないが,本章ではその一端を概観するに止まっているので,より詳細に知ろうとする方々は,文献目録によってそれぞれの資料に当たっていただきたい.ことに市町村史・地方史などの太平洋戦争後のものには,住民の生活についてかなり詳しい調査報告が掲げられていることが多いので,それらを捜索検討されることを希望する.