はじめに
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第7編 民俗

はじめに

 民俗という語は,一般には民間習俗という言葉を簡略にしたものと解されている.これについても,語義,用例,内容等について議論を始めれば,難しいことになるのであるが,今は通例の解釈に従って,一般住民の生活によって生み出された風俗・習慣と,それらのうち現在まで何等かの形で維持残存したもの,いわゆる文化財を指して用いることとする.したがって,実際には民俗編においては住民の生活にかかわる日常,非日常の衣食住から冠婚葬祭,信仰・儀礼など有形無形のあらゆる部門にわたって記述することが必要であろう.しかしながら,そのようないわゆる民間に伝承されてきたものすべてを本書の中で採り上げることは極めて困難である.そこで本章では,民俗としては一部にすぎないけれども,それに関連する他の分野で多少とも触れる項目(例えば,歴史,産業など)については省略して,ほとんど触れられない部門だけについて採り上げておくこととする.

 そこで,より詳しく説明するものとしては,まず,多くの民衆生活の表現の基底に横たわっている精神生活をうかがうものとして,社寺その他の路傍の神仏に至る民間信仰の諸相を解説した.もちろん,ここでは多摩川そのものについての信仰ではなく,流域の山,川,樹木などに対する民衆の意識を示す信仰現象に触れたい.また,住民の間に不文の伝承として形成された昔話,伝説,世間話など,口伝えの文化の内容と伝播関係を示して,そのイメージの型,つまり何を望ましい価値とみて,何は好ましくない状態と考えてきたのかをうかがってみる.これがいわゆる口承文芸と呼ばれる部門である.さらに土地に根拠をおいて生活する人々が,その土地のどのような性質に注目し,それを利用してきたかを示す小地域,大地域の名称を考察することとした.地名についての論考がそれである.さらに,それら名もない庶民たちの生活の中から生まれた文化の表現である各種の文化財,遺跡,建築物,美術品,芸能,記録などの主要文化財について説明を試みた.最後に古来の住民が主として多摩川について感慨を述べ情感を慰めた文学作品や行楽行事の主要なものについて,その場所や内容の解説を行って参考とすることとした.いわゆる名所旧跡の代表的なものが,時代とともにどのように移り変わったかが,そこに現れてくるであろう.

 庶民の生活文化の現れは決して以上に止まるものではないが,本章ではその一端を概観するに止まっているので,より詳細に知ろうとする方々は,文献目録によってそれぞれの資料に当たっていただきたい.ことに市町村史・地方史などの太平洋戦争後のものには,住民の生活についてかなり詳しい調査報告が掲げられていることが多いので,それらを捜索検討されることを希望する.



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