2.1 上流地域
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2.1 上流地域

 上流地域の資料として,前記の『青梅市の民俗』の「口頭伝承」には,幾つかの世間話も収められている(参14).大方は狼や狐や天狗などの怪異であるが,いくらかは多摩川に関する伝承も含まれている.例えば,青梅市今井では,ある家の兄弟が,雨降りの夕方に,川に釣りに出掛けたが,気が変になってしまい,家の中に入らないで,どこかに飛び出していった.これは狐に化かされたというので,頭からほうろくをかぶせてやると,ようやく気が落ち着いてきたという.同市御岳山では,川で多くの魚をとったときに,バシャバシャと大きな音が聞えるので,思わず後ろのほうを見ていると,川天狗にびくの魚をとられてしまったという.また,同市今井では,川で大きな魚に出会って,思わずそれを取り上げようとすると,実は河童の化けたものであって,たちまち川の中にくわえ込まれてしまったというのである.

 青梅市のある家の宝に,河童の詑証文[わびじょうもん]というものが伝えられている.そのいわれについて,多摩川の上流に,権三淵という深い淵があって,そのすぐ下の浅い瀬は,水浴び場や馬の洗い場となっていた.三田の殿様が,拝島まで遠乗りに出掛けたときに,その地の河童が,その馬のしっぽにつかまって,権三淵まで魚とりにやってきた.それが馬丁に見つかり,殿様からおしかりを受けて,再び権三淵にきて,むやみに魚をとったりしないと,この詫証文を書き残したというのである(参15).

 檜原村のほうでは,ホドの沢が秋川に流れ込む辺りに,小豆洗いどという小さい滝があって,小豆を洗うような水音を立てている.昔,ある家の嫁がぼた餅を作ったら,たまたま小石が入っていたので,その家の婆が大層怒って,「小豆をよく洗わないからだ」と叱った.そのために,秋川の晦み淵というところに,嫁は身を投げてしまった.それからは,夜が更けると,小豆を洗う水音が間えてくるという(参16).この小豆洗いのいわれは,いわば伝説風に仕立てられているが,同じような小豆洗いの化物は,しばしば川のほとりに現れるといって,むしろ世間話としてもてはやされている.

 そのような化物の話ではないが,檜原村笹久保からは,50人力の男が現れて,鬼の源兵衛と呼ばれていた.玉川上水の取入口として,羽村の堰が造られたときには,近辺の村々から,御用の人足が召されたのであるが,檜原村の代表として,この源兵衛が出ていって,ただ一人で大石を投げ飛ばして,たちまちその場に積み上げたという.そのときには,草花の八雲神社に,200貫ほどの大石を納めたとも伝えられる(参17).多くの土地で,大力に関する話題がもてはやされているが,ここでは,特に玉川上水の工事と結び付けられていることに,改めて注意しなければならない.



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