3.1 谷と集落
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第3節 上流地域の地名

3.1 谷と集落

 地形にかかわる地名は,まず,山よりも谷や沢に付けられるし,その密度も谷沿いに多く尾根筋に少ないのが一般的といえる.その理由はまだ明らかとはいえないが,多くの山地では水が得やすく,平地も谷底に多くて居住や耕作のために谷や沢のほうが便利で,土地利用が細分化される結果であろう.また,交通路も平地と平地とを結ぶためにはなるべく低い部分を利用することが得策といえる.したがって,地名は低地,谷などに多くなるのであろうと考えられ,多摩川流域の山地でもこの原則はほぼ適合する.すなわち,沢はかなり小さくとも名称があるが,山頂などについては三角点などの置かれた,かなり顕著な峯でも公称はともかくとして,住民が承知している山名は知られていない場合が少なくない.明治以後の登山者の増加によって,登山者の命名による他称地名もまま存在する.

 今,試みに秋川上流の檜原村の境域にある山名のうち「風土記稿」が記載したものを挙げると11ある,それに対して,主流の谷である南北秋川を除いて支流の沢の名称は40を数えることができる.より詳細にみるならば,谷についての名称はさらに増加することが予想できるところで,居住地としての小名の呼称でも夏地沢・うたふせ沢・宮ケ谷戸・上泉沢・下たれ沢などという谷や沢を冠した地名は少なくない.居住地が谷の中に選ばれていることがうかがわれるのであって,それに対して山名を付けた小名は竹峰というのが唯一の事例といえる.ただし,多摩川本流の奥では地形上の特色である山腹緩斜面の発達や,気温の逆転あるいは日射の条件などもあって,「三田領の奥に至ては,村々の民戸多くは屈曲して登れる山上にやとりをしめたり」と「風土記稿」にも記されており,地形図上でも山腹の村落が古く,谷底の道路に沿う集落は新しく成立したらしいことが推察できる.江戸時代の紀行文によっても,古道は急斜する谷を避けて山腹をめぐり,尾根を越えて通じていた様子がうかがわれる.

 上流地域の地名一般,殊に小地名の特色となっているのは,自然の地形・地物にかかわるものの多いことである.例えば,清水,杉平,高岩,大沢,栃久保,大荷田(ニタは水湿地で野獣の集まるところ)などの名称がこれに当たる.その反面で住宅のある地区でも歴史的な地名としての寺野・鍛治屋敷・堂ノ谷などの呼称を持つものは相対的に少なく,日向・羽場・梅ノ木平など居住に適した地形であることを示す地名が普通に用いられている.したがって,個々の意味のとり難い地名の語源についても,このように天然の地形語を考慮しながら,その発生を考察するのが適切な方法であろうと思われる.



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3.1 谷と集落