| 前のページに戻る | 次のページを見る | 目次に戻る | 表紙に戻る |
多摩川の下流地域5市区の工場数は13,231,従業者数は279,813人,出荷額数約6.7兆円で,全流域工業のそれぞれ73.3%,71.1%,75.1%を占めている.業種別では工場数の45.8%,従業者数の58.5%,生産額の41.0%を組立機械工業が占めていることに特徴がある.次いで工場数では鉄鋼・非鉄・金属などの組立機械工業の下請となる部品工業の類が多いことに特徴があって,24.2%を占めており,出荷額では石油・化学などの化学工業類が29.1%を占めて特徴がある.化学工業類の工場規模は大きく,1工場平均111.7人で125.4億円の生産をあげているが,部品工業類や組立機械工業は比較的規模が小さく,1工場平均前者は15.7人で3.1億円の生産をあげ,後者は27.0人で4.6億円の生産をあげているにすぎない.
すなわち,下流地域の工業は組立機械工業・小規模な部品工業・大規模な化学工業に特色があり,それらは下流地域でも異なった地区に地域分化している.まず,最も下流部の川崎市川崎区の臨海地域には,工場数は少ないが(56工場,6.2%),生産額の57%を占める石油・化学工場があり,幸・中原・高津区などの内陸地域には電機を中心とする組立機械工場が多く,3区の工場数の26.7%,出荷額の41.4%を電機工場が占めている.一方,東京側では,大田区と世田谷区に小規模な部品工場となる金属工業の類が多く,狛江・調布にはやや大規模な電機及び一般機械工場が多い.(表8.3.35 多摩川下流地域5市区の工業構成)
この傾向は以前からあるものの,高度成長期以後,大田区・世田谷区のやや大規模な組立機械工場が,狛江・調布や神奈川県方面へ立地移動することによって強まっている.1960年の統計をみても,下流地域の工業の約半数を組立機械工業が占めており,約20%を部品工業が占め,出荷額においても約10%を化学工業類が占め,化学工業類の大規模化と組立機械工業や部品工業類の小規模化がみられる.
狛江・調布には古くから鋸工業や製糸工場などもあったが,近代的な工場進出が行われるのは昭和になってからであり,とりわけ,第二次世界大戦以降に著しい.その中で最も早いのは1933年の日本針布であるが,大部分は昭和10年代である.東京航空計器は1937年に東蒲田から狛江へ独立し,翌年,東京重機は兵器生産の組合から株式組織に発展した.また,国際電気も1940年に軍事用高級無線機器を生産するために設立されたものである.このように狛江・調布の工業には,戦時中,軍需工業として発達したものが多いが,その立地理由は,比較的京浜工業地帯に近いことと,国防上,疎散な田園地帯を指向して,城南地区から立地移動してきたものである.
この傾向は戦後にも引き継がれ,その最も代表的なものはミツミ電機である.ミツミは1954年に雪ケ谷で創業した電機部品工場であるが,大岡山・大崎と施設を移転・拡張し,1959年に調布工場を完成,オートメーションと一貫生産を指向し,さらに厚木や水戸・広島・九州など全国にも生産拠点を拡大した.また,1951年にキューピーが渋谷から,栄太楼は日本橋から調布へ新工場を建設して立地移動し,重機も製パン工業に進出するなど調布の大規模食品工業の発展も著しかったが,一方では,国際電気が羽村へ移転して,その跡地が住宅団地になるなど,狛江・調布地区の脱工業化そして住宅地化も近年著しくなってきた.