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多摩川およびその流域は多くの動植物に安定した生活の場を提供してきた.東京という大都会を流れる河川として川を囲む豊かな自然とその流れは都会の人々が自然に親しむ格好の場として様々な形で利用されてきた.
多摩川の源流には雲取山,笠取山,大菩薩嶺など2,000m以上の山々が並び,亜高山,山地性の種をはぐくみ,源流,上流域は秩父多摩国立公園地域として,あるいは水源涵養林として自然が比較的良好な状態で保存されている.中流域は丘陵地で,雑木林,畑地,屋敷林などが複雑に入り組んで,多くの小動物にそれぞれに好適な生息の場を今でも提供している.下流域においては,自然は既にその姿を消してしまったが,本来の姿であれば多くの常緑樹が茂り,暖地性種の進出も可能な地域なのである.また,古生層から成る古い奥多摩(秩父)の山系,新しい関東平野等多彩な地史的背景も,動植物の多様性をもたらす要因として重要である.
多彩な物理,化学的外界,いい替えると環境の多様性が多彩な動植物を保持しているのである.動物の多様さの一例として,多摩川流域に生息する蝶の種類を表9.3.8に示してある.
表9.3.1でみられるように,多摩川の源流から河口までその周辺地域には8科125種の蝶が生息している.この125種という数値は本州に分布する蝶のおおよそ80%,沖縄や北海道等を含めた日本全体と比較しても,その約50%を産することを示している.東京という大都会近くを流れ,かつ,それほど広大な流域を待つとはいえない河川付近の蝶相*としては驚くほど豊かなものということができる.
多摩川流域10個所にセットした誘蛾灯(ライトトラップ)に集まった蛾の種類は7月の2日間で832種と記録されている(参17).ちなみに長野県菅平で長年の採集の集計で700余種とされており,それと比較しても多摩川がどれほど多彩な小動物の生活を保証しているかをうかがい知ることができよう.なお,この832種という数値はわずか2日間の採集の結果であり,この数値は今後の調査でさらに大きくなることは確実である.
鱗翅類を例として,多摩川流域の小動物の多彩さを挙げたが,この多彩さが“生物的自然の豊かさ”として多摩川水系の大きな特徴となっている.